なぜ人間はこんなにゆっくり大人になるんだろう?

 

「みなさん、ポルトマンの人間百日早産説」って知っていますか」

なぜ、人間の赤ちゃんは生まれて一年もの間、立って歩けないのだろう?
なぜ、人間は十数年も経たなければ「一人前」になれないのだろう?
不思議に思ったことはないですか。

なぜ、人間には「家族」なんてあるんだろう?
なぜ、人間には「青年」なんて中途半端な時期があるんだろう?
不思議に思ったことはないですか。

なぜ、人間は「愛してる」って言えるんだろう?
なぜ、人間は「なぜ?」って言うんだろう?
不思議に思ったことはないですか。

人間以外の哺乳類は、生まれてすぐに立ち上がります。
犬を飼っている人なら知ってるよね。
彼らは、生後半年で君たちと同じ15歳です。

◆  ◆

なぜ人間はこんなにゆっくり大人になるんだろう?

それは、僕らは「ヒト」として生まれたあとで、「人」にならなければならないから。そのためには時間が必要だったんだ。

「人になる」ためには、「ヒトである」こととは比べものにならないほど、
たくさんのことを学ばなければいけません。
そのためには学びの場が必要でした。それが家族だったのです。

百日早く生まれた弱々しい僕らは、周りの大人にかまってもらわなければ生きてゆけない。
だから周りの大人―つまり君たちの両親は、僕らを育てるために「家族」を作ります。
家族は文化の貯蔵庫。
僕らは、ここに蓄えられたあらゆるものを吸収してゆきます。
そして、次第に学びの場を広げてゆきます。仲間、学校、社会へと……。

◆  ◆

学びの場が広がってゆくに従い、学び方も変わってゆきます。
かつて、僕らが「ヒト」と「人」の中間だったころは、まるで鳥のヒナのように、ただ巣に座って、口をあけて待っていればよかったのです。

でも、そろそろ巣を出ようか。
でも、そろそろ自分の足で歩いてみようか。
「ヒト」から「人」になるために……。

自分の足で歩くってどういうこと?
それは、「なぜ?」という疑問を自分で探すこと。
それは、「なぜ?」という疑問に自分で考えること。
そして、「なぜ?」という疑問を愛すること。


みんな知ってる?
「哲学」を意味する「フィロソフィー」って言葉は、「知恵(ソフィア)を愛する(フィロ)」っていう意味だってことを。

みんな知ってる?
「学問」は、「学門」じゃないんだよ。
「問いなぜ?」を学ぶこと。それが学問なんだよ。

◆  ◆

別に三平方の定理を知らなくたって「ヒト」は「人」になれる。
大切なのは、三平方の定理を知ることじゃない。知ろうとすることだ。

別に関係代名詞を知らなくたって「ヒト」は「人」になれる。
大切なのは、その向こうに見えるもうひとつの世界に思いを馳せることだ。

生まれたての僕らは、哺乳類の中ではもっとも弱々しい。
なぜなら、百日も早くお母さんのおなかから追い出されてしまったから。
でも、きっとそれには意味がある。
安全な胎内から出て、危険な、しかし刺激的な外の世界で何かを為すために。

百日早く生まれてしまった僕らは、学ぶことが本能なんだね。きっと。

 

松本 宏隆