部屋と祖母と私

 

日曜日の昼、外出から戻った祖母がため息混じりにつぶやいた。
「はぁ、全身がだるいわ。」
「疲れが抜けないの、癌じゃないかしら・・・」
「そんなことないよ」と笑って言ってみる。


ふと見れば、風呂場には濡れた水着
「ばぁちゃん!プールで泳いだら、誰でもだるくなるって。」
そんな彼女も八拾後半

 


髪を染めた次の日の朝、
祖母と二人で食事をしていた。
顔を見つめていた彼女がつぶやいた、
「眉毛黒くなったねぇ。肌はこんなに白いのに、
あなたは眉毛だけは黒いのねぇ。」


すみません、そこだけが本来の色です・・・
次の日眉毛も染めました。

 

学生の時、バイクで一人旅に出てみようと思った
その事を祖母に告げると、
「はいよ、行ってらっしゃい。」
彼女のこんなところが好きだ。
「どこに行くの?」とか、「危ないからおよし」なんてことは言わない。
さっぱりしたもんだ。


その日の夜、トイレに行く途中で祖母の部屋の前を通った。
話し声が聞こえる、彼女の声だ。
「あの子ね、また暴走族の仲間とどっかに行くらしいのよ。」
ばぁちゃん・・・


暴走族でも無いし、一人だし・・・
旅は諦めよう・・・

 

学生の時、祖母が浴衣を作ってくれた。
夏がまだ暑くなる前、
家でごろごろしている私の体を採寸していた。
浴衣を作ってくれたのなんて何年ぶりだろう。


朝方、遊びから帰った私は自分の机の上にその浴衣を見つけた。


真っ白な浴衣、見たことの無い程白い浴衣。

 


死装束ですか?
切腹しろと?
・・・
すみません、明日から真面目に生活します。

 


祖母との朝食が好きだ。
食事をとりながら、色々な話をしてくれる。
子供のころから、彼女の話を聞きながら食べる朝食が好きだ。
最近は色々質問もしてくる

 


「円周率の計算方法ってどうやるの?」
・・・
「えっと、円周の長さではなく、円周率の計算方法ですか?」
朝からものすごいヘビーな計算なんですけど・・・
「コンピュータで」と一言答えて、朝食を続ける。
こんな朝が好きだ。

 


祖母は私に色々なことを教えてくれた。
彼女から多くのことを学ぶことができた、感謝している。


子供の頃、テレビばかり見ている私の前で物理の実験をしてくれた。
それは派手な光と音を伴う大規模な実験だ。私はこれで電磁気学に
興味を持った。


電気が流れている、テレビの電源コードをはさみで切るとあんなこと
になるんですね。


「ばぁちゃん、はさみ熔けているよ・・・」


祖母は私に色々なことを教えてくれた。
彼女から多くのことを学ぶことができた、ほんとに感謝している。


小学生の頃、初めて与えられた自分だけの部屋。
私は喜んで家具の配置を考えた。
広い部屋ではなかったが、子供なりに部屋を広く使えるように必死に考えた。
小さな体で箪笥を動かし、
小さな体で本棚を動かし、
小さな体で机を動かした。
夜中までかかってしまったが、ほんとに楽しい作業だった。

 


次の日、学校から帰ってきた私は元通りに戻った部屋を見つめる。
彼女が元通りに戻したらしい・・・
私はカオス物理学を学んだ。

 


意味がわからない・・・

 

 

 

「しんたろ〜、汚い顔してなんだい。顔洗っといで!」

 


これ、日焼けです。

 

たっぷりの愛情に包まれて生活してきた。
彼女からもらったたっぷりの愛情を次の世代に伝えていきたい。

 

しんたろう