極致

 

 

 私は夏が近づくと食事の量が減ってくる。夏に向けてナイスバディになるためにダイエットしているわけでも、夏期講習の重圧に負け始めているわけでもない。ただ、自然と食事の量が減っているだけである。初めは自分でも気がつかないが、夏が始まると自分でもその量の減少に気が付き始める。空腹時でも決して満腹になるまでは食事をしなくなる。満腹時の、あの幸せな感覚を得ることもなくなっていく。精神は常にピリピリと、しかしシャープになり始める。

 

  ボクサーが減量をしながら、自らの精神を鋭く研ぎ澄ませる過程に似ているのかもしれない。テキストの隅々まで神経が行き届くように精神を研ぎ澄ませ。生徒のほんのささいな顔の曇りも見逃さないように神経を研ぎ澄ませる。研ぎ澄まされたナイフの刃先が鋭くなるにつれ、薄くもろくなるように、精神をすり減らしてもこの作業を止めない。クラスのちょっとした空気の澱みを全身で感じ、塾全体が自分の体のなかに入ってくるような感覚になるまで。

 


その極致に達したとき、 私は

 

 

 

背後を音も無く這いずり回る

 

 

黒いあいつに

 

 

振り向かずして、悲鳴をあげる。

 

しんたろう