あの旅を振り返って

 

 

十四歳の初夏、初日の夜一時、私は九十九里浜の海岸沿いの国道を満身創痍な状態で自転車をこいでいる最中だった。その時点で既に自宅を出発して十六時間こぎっぱなしだったので腿や腕や腰や首、精神状態も全てボロボロだった。

 夜中の海岸は言葉にできないほどの恐怖を私に与えた。歩行者や自動車は三十分に一度お目にかかればいい方だ。右手には漆黒の闇に包まれた山が泰然とそびえていて左手には闇夜との境が見分けられない様な海が静かに、そして不気味に波の音を立てていた。おまけにトンネルが多い。人も自動車もないトンネルを出るときは本当に怖かった。その頃はまだ霊の類を信じていたので「このトンネルを出て左手を見たら首のない人が立っていたりして・・・」などと一人で空想しては恐れ戦いていた。全ての状況が最悪だった。

 そこで私に何ができただろうか。「怖い!助けて!」と叫んだところで誰が助けてくれようか::::誰もいない。ここで朝まで寝ようかと自転車をこぐのをやめてみたがふと「ここで動きを止めたら永久に動けなくなってしまいそう・・・」とまで思わされた。:::怖い。そう、そのときに私ができる全ての、そして唯一の事は、ただひたすら疲れきった体に鞭を打って自転車をこぐ事だけだった。

 ついに房総半島の最南端、白浜町野島崎で朝焼けを見ることができた。長い、長い夜が終わったのだ。ほっと安堵した。「俺はあの恐怖に耐えたんだ!」と意気揚々としていた、のも束の間、大事なことに気付いた。そこはまだ旅の折り返し地点に過ぎなかったのだ。歩く度、全身の骨が悲鳴をあげる程ボロボロだった。途方にくれた。朝の海辺で海を眺め、ついに電車での帰宅を決断してしまった。駅を探す気力も無かったのでとりあえず目に付いたガソリンスタンドの隅で一人転がって仮眠を取った。(勿論、そこのお兄さんには旅の事情を適当に話して許可を得た。)

 次の日。正午を回った頃に目が覚めた。荷物をまとめて、そこのお兄さんに感謝の言葉とお別れの挨拶を済まし、その場を去ろうとした時、お兄さんが
「これでよかったら食べてよ。自転車の旅、頑張れよ!」
とマックのセットが入った袋を渡してくれた。;;;;;本当に嬉しかった;;;
 
 それから二日後の午前十時、ついに自宅に自転車で到着した。

 自分自身の体力と精神力の限界。お化け屋敷やテレビじゃ理解し得ない、身を持って体験した恐怖。海辺での挫折。そして、優しさ、人とのふれあいで得る大きな原動力。そのような旅での様々な出来事とそれを経て目標を達成したという事実はその後、私が苦難にぶち当たった時においていつも背中を押してくれた。

 最近、受験生を見て受験も旅も似たようなものだな、とふと思った。ある女の子の生徒は受験モードに切り替え、本当に頑張っている。それでもなかなかCTの成績が伸びず、
「先生、どぉしよぉ・・・・(涙)」
と不安でいっぱいな目をして話しかけてきた。
 
「いくらやってもなかなか成績が伸びない」
そんなとき、受験に恐怖さえ感じることだってあるさ   
怖くて逃げ出したくなる時だってあるさ
でも、忘れないで
君たちには互いを高めあえる素晴らしい仲間がいるんだよ
一人じゃない!
今君たちができる全てのこと::::まだまだ諦めないこと

 

寺山 秀星